MAKAN-魔鑑

貴女という名の魔術鑑定

Moon

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約12分
月経の普遍的原型-「月」

電気照明が出現する以前、人々は満月の輝く夜に夕べの散歩を楽しんだり、友人を訪問したり、パーティを開いたり、屋外で儀式を執り行ったりした。狩りの獲物を狙う絶好の時期でもあった。真っ暗闇となる新月の夜は、自分の内側を見つめる時、内省をより深める時であったので、多くの伝統では、新月は浄化の時とされていた。

多くの文化において人々は月を崇めてきた。月は、「湿気を与え豊穣をもたらす光を持ち、人間を誕生させ、植物を実らせる」ことから、プルタルコスは、エジプトの神官は月を「宇宙の母」と呼んだと伝えている。工業の発達した時代になると、月とのつながりの多くは私たちの日常生活から消え去った。しかし、百年か二百年さかのぼれば、月の満ち欠けと農作業の効果的な進め方が極めて重要な関係にあったという証拠を見い出すことができる。

イギリス諸島の賢い熟練農夫達は、月と農作業との間にこのような法則を見出した。「塩漬けの薫製にする肥えたプタは満月の頃と殺すこと。月が満ちるときにヒツジの毛を刈ること。満月が欠け始めたら、木を伐り倒せ。ウマやロバは月が満ちるときにかけ合わせ。月が欠けるときできた仔ウマは丈夫に育たない・・・・・月が欠けるときに、果実を収穫しウシを去勢するのがよい」

月の周期と植物の成長の関係は多くの文化で理解され、この知識は今も生きている。ルドルフ・シュタイナーの教えは、園芸と月の相との関係を知るガイドとして欧州の庭師の多くに活用されている他、現在のインドにも、月の満ち欠けに基づいて植物を植えるのが一般的な習わしとなっている地域がいくつかある。

古代の人々にとって月が重要な存在であったという事実は、様々な伝統に残されている。現代のバースデーケーキは、火を灯したろうそくを満月の形のケーキに立てて月の女神アルテミスの毎月の誕生日を祝ったギリシャの習慣が今に伝わったものである。ガリアでは三日月が重要なシンボルとされていたため、聖餐のパンは三日月形をしていた。近代フランスでは三日月形のパンを作ってクロワッサン(三日月、英語では 'クレセント' )と名付け、俗に「お月様の歯」とも呼んでいる。イスラム教が普及する以前のアラビア半島では、月の女神が非常に重要とされていたため、その紋章が国全体を表すようになり、現在のイスラム教の旗に三日月形として残っている。現在、アラブにおいて赤十字社と同じ活動をする組織は 'レッド・クレセント' (赤新月社、通称「赤い三日月」)と呼ばれている。

月(moon)と精神(mind)の語源は、印欧基語の 'manas', 'mana', または 'men'で、精神(mind)と 'Ma'の属性である太母神を意味するとされている。天からもたらされるマナ(mana)とは、体に力をみなぎらせ、魂ばかりでなく肉体もはぐくむ神聖な恵みである天の「食べ物」であった。マナはまた、「精神」と「月」の両方、さらに「神秘な霊力」、つまり神性も意味するラテン語の 'mens'とも関連があった。ギリシアでは 'menos' は、月と力の両方を意味した。ギリシアで「月」を意味する 'mes' は、測定(measurement)と月経(menstruation)の語源である。

月は、強い感情と関連している。恋に落ちて「夢見心地」の様子を "moonstruck"(月に心を打たれた)と言い、「満月に魅せられて恋に陥る」など、月に関する表現は様々だ。満月に強く影響される人は多いが、上機嫌だったのがいきなり不機嫌にと感情が極端に変わりやすい人はもっと多い。

'lunacy'という言葉は月(lunar)に由来し、多くの文化では、月が感受性の強い人の狂気をあおると信じられ、狂気は感情の激しさから生じるとされている。オオカミ男は満月を見て変身するとされ、タロットカードの月のカードには、月の下で吠えるイヌが描かれる。伝統的なタロットカードの月は、危険と恐怖を連想させるが、太陽は、善なるものと輝くもの、そして安全性、力を持つものすべてを表している。これは、女性を畏れる文化において、月に対する考え方が、夜と闇とそして強い感情への恐れに移り変わったことをよく表している。


かつて月は、インスピレーションの源であり、夢の世界にいざない、豊かな感情と詩的な感性を呼び起こすものであった。我々が意識状態の変化を恐れるようになる以前は、マニア 'mania"とは法悦たる啓示を意味し、'lunacy' は月の精に取り憑かれた状態6を意味したが、家長制社会では徐々に、「狂気」や「移り気」という意味を帯びるようになった。多くの天賦の才能に恵まれた人々の人生からもわかるように、「インスピレーション」と「狂気」の違いは微妙なところであるが、西洋社会で「天才」と「狂気」が関連付けられているのは、個々の感情と創造的なエネルギーを抑える文化的傾向の影響かもしれない。この抑圧は、ときとして神経病とヒステリーをもたらすことがある。

月が引き起こす 'lunacy"(狂気) の根本的原因は、月経と月に関する知恵を抑圧してきたことにあるのかも知れない。

月は夜を支配し、よって、真っ暗な闇をも支配する。月は、別な意識状態に人間を引き込む、輝ける麗人である。私たちが仕事や日常生活を営むために太陽が行く手を照らすのに対し、月は、人間の経験における異なる側面、つまり内面生活、イマジネーション、海のように果てしない無意識という領域を照らす。無意識の海に秘められたエネルギーは、太陽のそれとは極めて異なる性質のものである。それは、照らすこともできれば、ゆがめることもでき、感じやすく、繊細で、その光は変化に富むものである。満月の時、月光はすべてを照らし、新月の時には真っ暗闇となる。女性なら誰でもこの敏感でもろく変わりやすい感覚を経験する。

月経前になると、女性の多くは、神経が過敏で不安定になるのが普通である。私達の社会は太陽を崇めている。したがって、エネルギーをふんだんに使い、社交的で外向的な振る舞いが好まれ、物静かで内向的なもの、詩的なものは一般的にあまり評価されない。現実主義や物質主義を好む文化においては、夢想家に存在価値はない。しかし、私達が映画を見たり、ラブソングを聞いたり、詩を読んだときにわかるように、月との関わりがあってこそ得られる魂の栄養がある。満月の下、水辺にたたずむと、イマジネーションがふくらみ、精神が豊かになり、生命への畏敬の念が湧いてくる。


リンゼイ・リバーとサリー・ガレスピーはこのように書いている。 「太陽の光は一定した明るさを保ち、かつ集中的に降り注ぐが、月の光は 満ち欠けを繰り返しながらほのかに夜を照らす。 月のぼんやりした光には、魔法のような光を放ち、無意識の世界への道を照らす神秘が宿っている。あらゆる文化や時代を通じて、月に由来する知恵は無限にある」 (*斜体は私筆者による編集)

占星術と月との関わりは、自然界に関する古代の考え方に根差している。月は、女性、精神(とりわけ記憶)、情緒的な行動、家庭、妊娠周期、そして生殖周期に関連しているのである。

家長制度が確立される前の時代には、女性が月とあらゆる形態でつながっていることを示す女神が多くの宗教に存在した。このため、女性は、自分たちの体の生理的な変化に神とのつながりを感じ取ることができた。現代宗教の大半は、もはや女神を崇めないばかりか、そのような女性の体の変化に神を意識することもないという点で、現代女性は不利な立場に置かれ、ゆえに、月と周期的な生理とのつながりを再確認することができなくなっている。

古代の女神イシスの像や絵画には常に三日月が描かれる。ダイアナまたはアルテミスは、月と狩猟、そして女性や出産の神である。月の女神は、権力を持った女性であり、いかなる男にもよって所有されないという意味で処女であり、人間の姉妹や動物王国の守護者でもあった。西洋世界で唯一の女性の神とされ崇拝を受けているのが聖母マリアで、その足下にも三日月が描かれる。これは、女性と月との間には象徴的な関係があるという説を実証している。ルネサンスのような比較的近代文化においても、月は女性の神であると考えられていた。

このルネサンスの時代には、女性は何か望みを叶えたいのであれば神よりも月に祈るべきだと言われた。スコットランドでは、満月は女性にとってもっとも幸運な時期であると考えられていたため、結婚式は必ず満月の時期に行われた。スコットランドの娘達は、 「すてきなお月様、どうぞ神の祝福がありますように」 と言いながら、月にお辞儀をした。

多くの古代文化には、乙女(Maiden)、妻(Bride)、老婆(Crone)の三相の女神という概念がある。 Maidenとは処女や若い娘、またはお姫様のことで、純粋で希望に満ちあふれる新月の女神である。月が満ちるにつれ、新月の女神は「豊穣」と「創造性」、「官能性」を象徴し、儀式を司る満月の女王である成熟した女になるが、やがて月が欠けるにしたがって年を取って老婆の女神となり、死と月の周期の終焉を象徴し、再び新月が現れるまで月のない暗闇が続く。

この周期から古代の人々は、再生の前には必ず死が訪れることを理解したから、 Crone(老婆)は新たな命をもたらすために、古い命を滅ぼす女神と考えられた。 私達は毎月この周期を観察することができる。夕方の空には細長い三日月形をした新月が慎ましやかにかかり、その後はまるで妊婦のお腹のように丸みを増し、ついには豊作や豊穣を表す満月へと変わりゆく。まん丸になると、不気味とも思えるほどの煌々たる光を放って夜空に輝くが、満月をピークにみずから幕を引くように欠けはじめるのである。

ゆっくりと月は欠けてゆき、ついには空に真の暗闇が訪れる。やがて何も見えなかった暗闇から澄み切った新しい光が姿を現し、月の女神はよみがえる。これは、誰もが経験する生と死のプロセスであると同時に、毎月すべての女性の体と心で起こっているプロセスをありのままに映し出す鏡でもある。


月は潮の干満を支配することで、海や河川の流れに影響を与える。私達の体液も、月の満ち欠けの影響を受けている。月の周期そのものが液体のように流動的で絶えず変化している。これこそ女性の体が月に似ている部分である。

すなわち、女性の体内ではホルモンバランスが絶えず変化し、体液にも潮汐作用がある。 月経を迎えると上げ潮のように流れ出し、終わると下げ潮のように乾いていく経血、排卵期の粘り気を帯びた白いおりもの、セックスのときに分泌される粘液、月経前のつらい症状に耐えられずに流す涙、そうした体内の潮流は常に変化している。中にはオルガスムスに達したときに、大量の粘液を分泌する女性もいる。 女性の体内で起こる体液の潮流は、その人のアイデンティティにおける極めて重要な部分であり、海、月、惑星の水、そして季節の移り変わりと女性とを結びつけているのだ。

ネイティブ・アメリカンは、月経を「ムーン・タイム」と呼び、生理中の女性は「ムーン・ロッジ」と呼ばれる小屋に籠って瞑想する慣習がある。世界中の多くの文化において、女性と月は強く関連するとされている。これを最も明らかにするのが、女性の月経周期である。女性の平均月経周期は29.5日で、月が地球を一周する時間と一致している。平均的な妊娠日数は265.8日で、太陰月の9ヶ月とほぼ一致する。これは、産婦人科医が割り出す妊娠日数(280日)より14日少ないが、2週間の誤差がある理由は、月経が始まった日以降はいつでも妊娠する可能性があるため、妊娠前の月経の最初の日から数えて40週と計算するからだ。実際に、月経周期の14日目に排卵するケースはかなり多い。したがって、実質的な妊娠期間は38週(266日)となる。

満月と排卵との密接なつながりについては、古代人も知るところであった。北カリフォルニアのネイティブ・アメリカン、ユロック族の女達は、月経が不規則になると、満月に祈った。おそらく、一晩中外に座って満月の明るい光に照らされることで排卵が誘発され、正常な月経周期に戻すことができたのだろう。ルイーズ・レイシーは、著書 "Lunaception" (『ルナセプション』)の中で、月光に照らされることで排卵が起こる仕組みについて詳細に述べている。

排卵は、厚みが増した子宮内膜を刺激するホルモンが分泌されたという合図である。子宮内膜は、排卵後14日目に剥がれ落ちる。月経周期は人によって異なるが、排卵から次の月経までの期間が14日というのは、3つある月経周期の相のうちでは最も規則正しく、このパターンの女性は非常に多い。これは、実際に満月によって排卵が誘発されると、排卵後14日目の新月に月経が始まることを意味する。一般的に、排卵を誘発するのに太陽と月以外の光が用いられなかったのも納得できる。自然光だけに照らされると、新月とともに女性が月経を迎える確率が高くなるのだ。

ネイティブ・アメリカン、そして、女性を中心とした地中海文化などの「大地」と「女性」を崇拝する社会では、女性の月経周期に基づいて儀式行事を行っていた。祝い事や豊作・妊娠祈願は排卵期と重なる満月の時期に行われ、籠りや浄化の儀式は、月経と重なる新月の時期に行われていた。私たち現代人は、もはや自然光だけでは生活できないし、正常な月経周期を狂わす要因は他にもたくさんある。

しかし、満月と月経が重なる女性はどの時代でも確実にいたであろうし、また、一生のうち、月経と満月が重なる経験は誰だってあるだろう。私の場合、満月と自分の月経が重なると、ものすごく強烈な体験のように感じる。満月と月経が重なると、私の活力と創造力に満たされる。自分の体に明るい月光のパワーが満ち溢れ、体中に心地よいほてりさえ感じる。自分の月経が新月と重なると、心を落ち着けるためにじっと静かに過ごす時間が必要だが、満月と重なった場合、たいてい、その時間は短縮される。体を動かさずにはおれなくなり、ウキウキして踊ってしまうこともあるくらいだ。

新月と月経が重なると、私は不活発になり、動作も鈍くなる。そして、自分の世界に篭ってしまう。「浄化・純化期間」と言ったところだろうか。私は内に引きこまれ、意識は心の奥に秘められた暗い洞窟のような魂のるつぼ、暗黒の時へと下がっていく。月経中、私の中には常に、「エネルギーの転換」、「内省」、「浄化」という三つの要素が存在するが、これらの強さは月の位相によって変わってくる。新月または満月とぴったり重なったときに、私はその違いを強く感じ取り、それ以外の月の相と月経が重なったときは、それほど強烈には感じない。

ペネロープ・シャトルは彼女の画期的な著書 "The Wise Wound" (『知恵の血』)のなかで、満月と自分の月経が重なると、創造力が著しく高まることに気付いたと述べている。彼女と彼女の共同著作者であるピーター・レッドグローブ氏は、新月と重なる月経は、生物学的な創造力の周期に関連するとし、満月と重なる月経はどちらかと言うと「生命の誕生」の創造以外のもの、つまり、芸術方面における創造力の周期に強く結びついているという。満月と月経の同時発生、そして、新月と月経の同時発生 これらの違いをよく理解すれば、月経中すごくエネルギッシュになる女性もいれば、逆に、内向的-になる女性がいるのもうなずけよう。

Honoring Menstruation ©Lara Owen
本の写真及び内容の著作権はLara Owen さんが保有しています。
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