姉妹なる双月
神秘的な双子の姉妹。
顔・しぐさ・声・・・見分けもつかないほどの圧倒的な2つの美しさ。
どちらの美貌も永久に輝き続け、決して失われることは無い。
姉妹に見初められた男には、2つの世界を「自由」に行き来する力が与えられ、どちらかを娶る「権利の日」さえもが与えられるという。
※娶る=妻として迎える
希望と絶望
決断と迷い
愛と憎しみ
平和と争い
真実と虚偽
「俺は自由を満喫出来る、そう、自由だ」
そう、自由に・・・・行き来する。「自由が」あるのだ、自由が!
この世の春が来たと言わんばかりに、男は自由を楽しんだ。
希望の自由、絶望の自由、平和の自由、争いの自由、真実の自由、虚偽の自由・・・・・・
「ああ、自由!自由とは・・・かくも素晴らしい出来事だ」
「おお!自由、自由とは、神が与えてくれた最高の人生!」
そして・・・時は経ち、男が待ち望んだ「権利の日」がやって来た。
権利を行使できる・・・選択できるのだ。
俺には「権利」があるのだ、権利が!
男の心は既に固まっていた。
「妹」を妻に娶るつもりだったのだ。
朝靄の中、姉妹が全く同時に“男に語りかけ、手を差し出した。
そう、同時に、同じ声で。
「あなたが妻に選ばれるほうの手をお取りください」
男は迷う。いったいどちらが・・・「妹」なのだ?
姉妹は、又、同時に問いかける。
「さあ、私の手をお取りください。本当に妻として迎えてくださるのなら」
困惑する男に、姉妹は語りかける・・・美しさを増したハーモニーで。
「ご安心ください、私達姉妹は永遠の命を持っています」
「ですから、いくらこの世が争いと絶望に落とされても、大丈夫なのです」
男は青ざめた顔で、周りを見渡した。
自由。そう、自由の後には・・・何も残されていないではないか!
「俺は、俺は・・・なんてことをしてしまったんだ!」
姉妹は、男の顔を不思議そうに見つめ問いかけた。
「もしや・・・・ご存知なかったのですか?自由の素晴らしい力を」
「いいでしょう。ご存知なければ」と、微笑む姉妹。
もし、あなたが「妹」を選ぶことが出来れば、この世を元に戻してさしあげましょう。
でも・・・もしあなたが、「姉」を選んでしまわれたなら・・・・
その時は未来永劫に渡って、この世が元に戻ることは無いのです。
そして、あなたの生命は「永遠の死」を迎え、二度と生まれ変わることもなく、
「永遠の暗闇」に落ちていくでしょう・・・。
姉妹は顔を見合わせ、心配そうに男を見つめて話し続ける。
そんなに、悲しい顔をしないでください。
私達まで、悲しい気持ちになってしまいます・・・。
せっかく、あなたに、「自由」と「権利」を与えたのに・・・。
朝靄も消え立ち、光が差し始めても、未だ頭を抱えてしゃがみこむ男に・・・。
「どうぞ、ご心配なく。権利はいつでも使えるのですから」
「私達は永遠の生命を持っています。ずっとお待ちしています」と。
そして・・・幾度も「選択」を出来ないまま、男の時は経っていた。
もう、何十年経ったのだろうか・・・。
朝靄の中、老いた男が小高い丘に立ち、姉妹を待っている。
老いた男は、自分の死期を感じているのだ。
今日が最後の・・・「権利の日」
男は思い残すことなく、どちらかの手を取る決心をしていた。
「半分の確立でいいのだ。大丈夫だ」
姉妹が優しい目で、男を包みこむように、同時に語りかけた。
「とうとう選ばれるのですね。どちらかの手を・・・」
男が生命を賭け、渾身の力をふりしぼり、大きくうなずいたその瞬間!
「妹」が男の前に歩みより、耳元で囁いた。
「私が妹なのです」
「私にも自由と権利があります、あなたの妻にしていただきたいのです」
年老いた男が妹の腕の中に倒れこむ、「やっと、終わった・・・・やっと」
妹は、男を抱きしめ、切ない目で語りかけ始めた。
私達姉妹は・・・「勇気の女神」なのです。
姉は「先の勇気」を司り、妹である私は、「後の勇気」を司ります。
妹が今度は、力強い声で男に語りかけ始めた・・・・そう、男が人生で最期に聞く言葉を。
もう1つ、もう1つだけ大切な夫のあなたに、お伝えしておきたいことが・・・・
「お約束します。永遠にあなたの妻として共に生きることを」
「あなたと共に、自由と権利を使い、暮らしたいと思います」
「勇気」を出すことなど、その後で良いと思うのです・・・・。
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