MAKAN-魔鑑

貴女という名の魔術鑑定

symbolism

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ラファル・T・プリンケ (Rafal T. Prinke)-- 黒いヒキガエルの探求
この記事はThe Hermetic Journal (1991年)の78~90ページに掲載されました。

※ラファル・T・プリンケ博士 ポーランド科学アカデミーの了解を得ています。無断転用は禁止です

ラファル・T・プリンケ (Rafal T. Prinke)-- 黒いヒキガエルの探求

黒いヒキガエルの探求~錬金術的シンボリズムの解釈
 錬金術的シンボリズム(象徴主義)に関する研究と、芸術作品や文学におけるキリスト教的シンボリズムに 関する研究の間には多くの相似点があるが、後者の解読法はよく知られている一方で、 錬金術の解読法は失われてしまっている。[1] ただ単に実態を明らかにしたり、 手がかりとなるような事柄の関連性を理解するだけでは、この失われた鍵を再び発見することは不可能だ。 むしろ、時間をかけて残された貴重な錬金術書物とイコノグラフィー(図像学)の詳細な比較研究を 行うことが必要なのだ。かつて、ヨーロッパの錬金術界にはシンボリズムに関するいくつかの「学派」が あったことが明らかとなっている。これらの学派で教えられていたシンボリズムは、 時として他分野のシンボリズムと共通するもの、異なる分野のシンボリズムを一部借用したと 考えられるもの、さらには、本来の意味を誤り伝えたものも存在する。 これらの学派が用いたシンボルと同時に、これらの学派についても明確に定義する必要がある。 完璧な定義を定めたとしても、現実に存在する錬金術関連作品には影響しないかも知れない。 しかし、錬金術思想を年代・地域別に記録するにあたり、また、今後の研究の参考資料としても 大いに役立つと思われる。このように幅広い範囲に及ぶ数々のシンボリズム、そして、これらの シンボリズムの違いについて理解するにはそれほど苦労しないが、この課題について適切に記述した 文献は存在しない。


 大半の学者達が強調する点は、錬金術思想には様々な用語やシンボルが用いられているということである。 代表的なのが「賢者の石」や「マテリア・プリマ」(第一原質)で、これらは様々な呼び名を持ち、 これに関しては、学者・研究家達が長ったらしい実例を挙げながら定義付けているようだ。 しかし、本当に役立つ錬金術辞典というのは、あらゆる錬金術書物で使用される明確な定義を持つ 特定のシンボルを入念に分析し、かつ、これらのシンボルに秘められた意味を多角的な視点から 解説するものでなければならない。どう考えても、このような神秘のベールで覆われた分野を完全に 解明することは、どんなに優れた研究者であっても不可能だ。 よって、私は、まず、ヒキガエルのシンボルの意味を明確にすることにした。 ライオンや鷹のシンボルに関する文献は数多く存在し、明確な定義も下されているが、 これだけ数が多いとリサーチに膨大な時間を費やすことになるからだ。

 個々の錬金術に関する学術的論文に登場するシンボルは全て、 以下二つの観点から研究していくことが重要と考える。

1. シンボルが用いられた時代、あるいはもっと以前の時代において、 他分野のシンボリズムではどのような意味を持っていたのか
2. 全く類似性のない錬金術関連の学術的論文において、 そのシンボルはどのような背景を持っていたのか

(1)に関しては、古代エジプトあるいは古代中国のシンボリズムに関連付けないよう 注意しなくてはならない。これは過激な神秘学研究者によくありがちな傾向であるが、 むしろ、中世またはヨーロッパ文芸復興(ルネッサンス)におけるシンボリズム、及び、 その時期において確実に一般的であったと思われる、古典主義的なシンボルに限定して調査すべきである。 (2)に関して特に注意すべき点は、当該のシンボルの使用頻度及び重要性である。 つまり、そのシンボルは、叙述された過程の冒頭部に出てくるのか、それとも、最後に出てくるのか、 そして、そのシンボルとともに用いられた他のシンボルの数はいくつか、こういった点に着眼すべきである。

 錬金術文学及びイコノグラフィー(図像学)にヒキガエルのシンボルが登場したのは、 ジョージ・リプリーの作品が最初と思われる。リプリーの作品は、ヒキガエルを重要かつ中心的 シンボルとして描いている。リプリーの短詩『The Vision』(以下、Vision) [2]では、 錬金術の過程がシンボルに覆い隠されて描かれている。ヒキガエルが初めて葡萄の汁を飲んだが、 大量の葡萄の汁が腹の中で "毒と化し"、中毒を起こして "腹が膨らみ始めた" という内容だ。 ヒキガエルは "巣穴"の中で息を引き取り、黒から白、そして赤へと変化した。 こうして、ヒキガエルの吐いた毒は強力な薬となったと記されている。

 有名な『リプリー・スクロール』(Ripley Scrowle)の錬金術写本の原本が残されているが、 私はまだ全て読んだことはない。(原本は二点しか現存しておらず、一点はフィツウィリアム博物館、 残り一点は大英博物館にある。)しかし、オリジナルの一部は出版されており、[3] こちらのほうはかなり広範囲に及ぶものの、さまざまな化学変化をたどるヒキガエルのプロセスを 描写している点においてはリプリーの作品と似たような志向を持つ作品のようである。 スクロールの詩篇では、錬金術史のあらゆる時点にヒキガエルのシンボルが登場するところから、 明確な連続性があることを示している。 詩篇の一部には、ヒキガエルは「賢者の石」の象徴として描かれたものもある。[4].

 よって、この詩篇では、賢者の石を手にするための「偉大なる業」に用いられる第一原質 (宇宙原理の「プリマ・マテリア」とは異なる意味での第一原質)のシンボルとしてヒキガエルを 用いたと考えられる。ヒキガエルはなぜ錬金術のシンボルに用いられたのか? この理由については、ヒキガエルは毒を持ち、かなり忌み嫌われた動物であると同時にその頭の中には 非常に価値の高い石を持つ動物とみなされていたということによって説明がつく。 その事実性は当時のリプリーの作品の中にはっきりと表れている。- ヒキガエルの頭の中にある石には 咬傷を治す力があり、解毒作用があると記されている。 - そして、その思想はシェイクスピアの 『お気に召すまま』(As You Like It)という作品にも見つけることができる。

甘美は逆境から,
逆境の御利益というものは、
すばらしいものだ

 よって、この詩篇では、賢者の石を手にするための「偉大なる業」に用いられる第一原質 (宇宙原理の「プリマ・マテリア」とは異なる意味での第一原質)のシンボルとしてヒキガエルを 用いたと考えられる。ヒキガエルはなぜ錬金術のシンボルに用いられたのか? この理由については、ヒキガエルは毒を持ち、かなり忌み嫌われた動物であると同時にその頭の中には 非常に価値の高い石を持つ動物とみなされていたということによって説明がつく。 その事実性は当時のリプリーの作品の中にはっきりと表れている。- ヒキガエルの頭の中にある石には 咬傷を治す力があり、解毒作用があると記されている。 - そして、その思想はシェイクスピアの 『お気に召すまま』(As You Like It)という作品にも見つけることができる。

甘美は逆境から,
逆境の御利益というものは、
すばらしいものだ

直訳 : 失意、逆境ほど身の為になるものはない。それはあたかもひき蛙のように醜く、毒を含んではいるが、頭の中には貴重な宝石を宿しているのだ。

ヒキガエルのシンボルについては、別のイギリス人作家も言及している。(1569年)

"年老いた大きなヒキガエルの頭の中には魔法の石がある。
人はそれをボラクス(borax)、あるいステロン(stelon)と呼び、
この石で作った指輪をはめて毒を予知する。"[5]. 

 エイレナエウス・フィラレテスはリプリーのVisionの注釈を書いているが、注釈には、 ヒキガエルは「純金」の象徴であると記されている。これは、 「"賢者の石"とは、不純物が完全に取り除かれた最高純度の金に他ならない」 [6] と 主張したマイケル・センディヴォギウスの影響を受けたと考えられる。 フィラレテスは、センディヴォギウスを絶大に信望しており、フィラレタ・コスモポリータ (PHILALETHES Cosmopolita:コスモポリータは「世界人」とか「世界市民」という意味) という雅号を名乗っていたほどだ。リプリーの「原質」についてはまだ解明されていないため、 エイレナエウス・フィラレテスの説が正しいかどうか判断するのは困難である。 リプリーは、彼の作品の中では最も知られる『十二の門』(The Twelve Gates)の中で、 第一の門(焼鉱法)について注釈を付けている。この作品はシンボリズムの色は薄く 、初期の化学用語が多く使われている。

直訳 : そのシンボルを人は「カラスの頭」と呼び、ある者は「カラスの嘴(くちばし)」と呼ぶ。
また、ある者は「ヘルメスの樹の燃え殻」と呼ぶ。
腹が膨らむほど飲んだ土の精は、その願望(強欲)にちなんでヒキガエル(toad)と名づけられた
毒を持つ土の精の呼び名は、この屈辱にちなむものもあり、様々である[7]

 これを読むと、ヒキガエルはニグレド(黒色化)、またはレイヴンズ・ヘッド(「カラスの頭」)に 象徴される錬金術の過程のシンボルであり、大地とも関連する動物だということが明らかになる。 興味深いことに、第九の門(「発酵」または「消化」の過程)で、リプリーはこのように書いている。

土は純金、そしてその魂も純金である。
ただの純金ではなく、四大要素の金である。[8]

 このことから、リプリーの作品では、ヒキガエルは偉大なる業の第一原質の象徴であり、 その第一原質は、錬金術の第一過程の焼鉱法によって、またはニグレド(黒色化)によって 得られることが明らかである。第一原質はひょっとしたら純金かも知れないが、それではカエルを シンボルとして選んだのは奇妙に思える。なぜなら、第一原質は全ての源となるものであるから、 純金というよりむしろ、粗野で不完全なものであるべきだ。第一原質というのはどこにでもあり、 愚かな者は例え目の前にあってもそれを見つけることができない、とよく言われており、 こちらの意見のほうがヒキガエルのシンボルにより一致するだろう。『緑の獅子狩り』 (Hunting the Greene Lyon)というタイトルの作者不明の詩にはこのように詠われている。

一番安いものを選べ
詭弁家、屁理屈屋には言わせておけ。そして、私の忠告に従うのだ
裏切られるな。真実はたった一つしかない
これは賢者の石で、どこにでも在る物ではない
石は、一見、汚く見える
そして、明らかに、それは土星の産物で
安っぽいが、その毒の力は偉大である
冷たく、熱を持たない物質である[9]

土星の産物=鉛のこと

 中世の比喩的描写・表現におけるヒキガエルのシンボルの特徴については、 中世作家のカテラヌス(Catelanus)の作品にも色濃く表れている。 「ユニコーンは、ヒキガエルをはじめ、有毒で気色悪い爬虫類動物のいる洞窟に住んでいる」 と書いている。[10].

 ヒキガエルは、錬金術の過程における一つの段階のシンボルにすぎないが、 リプリーの別の詩にもこのように謡われている。

6週間続いたにわか雨が止んだが、ヒキガエルは姿を現さない
醜いヒキガエルはパンパンに膨らみ、とうとうはじけて死んでしまった[11]

これは、Visionのフレーズと全く同じフレーズが使われており、 Visionと全く同じ化学過程であることは明らかだ。

真っ赤なヒキガエルは、葡萄の汁をたらふく飲み、お腹がはじけてしまった。
その後、葡萄の汁は腹の中で毒と化し、ヒキガエルは死んだ。
仲間のヒキガエルは彼の死を悼み、彼らも腹が膨らみ始めた。

 初期の英国人錬金術師 ブルームフィールドの 『哲学の陣営』(Camp of Philosophy)の中では、 ヒキガエルは霊薬(エリクシル)の名称として出てくるし、ときには賢者の石そのものを指すこともあった。

 最も高価で偉大なるエリクシルアゾト、バシリスク、アドロップ, コカトリス ある者はこれを「尽きることのない物質」と呼び、 ある者は液体の金属、「水銀」と呼ぶ。真空を生じさせる性質から、「砂漠」と呼ぶ者もいる。 北の方角から猛スピードで飛んでくる鷹、また、猛毒なゆえに「ヒキガエル」とも呼ばれる 様々な呼び名があり、万国共通の名前は存在しない 秘密の第五元素の一つであるから、軽々しく口にしてはならぬ[12]

 メアリー・アン・アトウッドは、これらの呼び名は全て賢者の石の呼び名であり、 偉大なる業の過程において賢者の石は段階的に変化し、その都度呼び名も変わっていったと解釈している。 錬金術の最初の過程(浄化)では「ヘビ(serpent)」と呼ばれ、それから「ドラゴン」、 その次に「緑の獅子」と呼ばれる。これらは強い体力と生命力を持つゆえに、 腐敗によってその毒はいっそう強くなり、しまいには毒を持つヒキガエルとなる。 その後、自らの毒にやられたヒキガエルは「マグネシア」とか「賢者の鉛」と呼ばれる。[13]

 よって、イギリスの錬金術伝統におけるヒキガエルとは、要するに、鉛の性質を持つ偉大なる業の 第一原質のシンボルなのである。(鉛といっても、本物の鉛とは限らず、土星に関する物質全てを 指している。)ヒキガエルは土星のシンボル("Regnum Saturni"(レグナム・.サートゥルニ)=土星界) でもあるため、時として「腐敗」または「Caput Corvi(カラスの頭)」と呼ばれることもある。 ヒキガエルの頭(第一原質)の中には宝石が隠されているということから、 賢者の石そのものであるとも言われる。このようなシンボリズムは、 その後のイギリスの錬金術師達にも受け継がれたようである。 エリアス・アッシュモール、エイレナエウス・フィラレテスあるいはリプリーの弟子とされていた トーマス・ノートンの孫サミュエル・ノートンなどの錬金術研究家達がリプリーの作品に対する熱意を 絶やさなかったからである。

 ノートンの 『甦ったメルクリウス』(Mercurius Redivivus)には、3つの興味深い図が登場する。 その一つには、偉大なる業の木の下に二頭のライオンが描かれ、その中央には一匹のヒキガエルが 描かれている。ヒキガエルは上にある葡萄を採ろうとしており、これは明らかに、 ジョージ・リプリーのVisionのイメージを表している。



有名なアッシュモールの錬金術関連文献の編纂書『英国化学の展覧場』 (Theatrum Chemicum Britannicum)には、錬金術の全過程が象徴的に描かれている。 一番下にヒキガエルが出てきており、おそらくこれは、ヒキガエルが錬金術の過程の最初の段階で あることを示すと思われる。手を取り合った男と女が足元のヒキガエルで繋がっているのが大変興味深い。 まるで、ヒキガエルは性的なニュアンスを含む「引力」を象徴しているかのようである。 この彫像のタイトルは、『スピリトゥス、アニマ、コルプス』(Spiritus, Anima, Corpus) となっており、コルプス - すなわち、肉体は、男と女として描かれている。 錬金術における性的な局面は今なお全く解明されていないが、アッシュモールの編纂書の挿絵を 描いたトーマス・ヴァーンが、性に関する作品を数多く残している点は注目に値する。 代表的なのが『Aula Lucis』 (アウラ・ルシス;光の家)である。ヴァーンは自分の妻の協力で ハルカリの油を作り上げ、そのレシピのメモを残している。 神秘思想研究家のA.E. ウェイトに言わせると、このオイルは、ヒキガエルに象徴される第一原質 そのものということである。[14]


性的シンボルとしてのヒキガエルは錬金術以外にも見つかっており、これは、 錬金術研究における議論をさらに盛り上げている。ヒーロニムス・ボッスの有名な絵画 『快楽の園』(The Garden of Earthly Delights)の三連画の右翼には、ヒキガエルを胸の上に のせた女性が描かれている。これは、「快楽の罪」を象徴するものだ。[15]  また、ストラスブールにある彫像『不実な乙女を誘惑する者』 (The Seducer of Unfaithful Virgins)は、リンゴを握る若者の背中をヘビとヒキガエルが 這い登っている。[16] この彫像から、ヒキガエルは 表向きの道徳では忌まわしく 低俗なものとみなされていた「性衝動」のエネルギー、 そして、セックス・アピール - 異性を惹きつける性的魅力のシンボルであったことが分かる。



『The Crowning of Nature』 [17]は、全く異なる伝統文化に起源を持つ作品と思われるが、 67点ある画像のうち、17番の「発酵」、18番の「元素の分離」 - この二つにもヒキガエルの シンボルが使われている。しかし、その画像のテクストは、リプリーの思想と非常に良く似ている。 "…. しかし、我々は、土星の特徴、そして、土星が偉大で生命をもたらすものであり、 やがては次章で簡単に説明する四大要素を生じさせる球体であることを、ヒキガエルを観察すれば 理解できる。[18]" 第一原質(このテクストでは第一原質ではなく、「化学物質」と呼ばれているが) の持つ土星のような性質は、図2とその説明によって裏付けられ、これは、さきほど私が出した結論と 一致している。図18は、リプリーの作品のヒキガエルの「毒吐き」によく似ている。 いずれの画像も、ヒキガエルの上にいる白い鳩は、おそらく、リプリーが表現した「葡萄の汁」の 揮発性を表しているものと思われる。



18世紀には、ヨハン・コンラド・バルシューゼンがこの作品の改訂版を出しており、 これには78点の画像が収められている。[19] プレート1には、賢者の水銀を取り囲むペリカン、 ライオン、サラマンダーとともに、ヒキガエルのシンボルが描かれている。アダム・マクリーンは、 これらの動物達は四大元素の象徴と解釈しているが、[20] 頂点に位置する鳥は明らかにペリカンであるが、 一般的にペリカンは「気」のシンボルではないし、ライオンを「水」の象徴とするのも こじつけのように思える。ライオンとヒキガエルのかたわらに正三角形のシンボルが描かれているが、 このプレートのシンボリズムは図版全体のシンボリズムと統一されていない。 したがって、このプレートは、あとで付け加えられたものと考えねばならない。 一方、これらの動物達は、「偉大なる業」の過程を象徴するものと考えられる。 これらの動物は『The Crowning of Nature』の原書では以下のプレートに登場する。



緑の獅子 7-8
ヒキガエル 17-18
ペリカン 37
サラマンダー 41-55, 58
天使・賢者の石 66-67

 バルシューゼンの原書のプレートに登場するこれらの動物は、「偉大なる業」の全過程を 要約したもので、よって、このシリーズにおいては欠かせない重要なパーツである。 唯一異議を唱えるとすれば、重要なシンボルとされる鳩が10~36のプレートに登場しているのに、 「偉大なる業」の全過程には鳩が一つも出てこないという点である。 とはいえ、補足欄にも書かれているとおり、鳩は、魂(あるいは揮発性を持つ要素)が進んでいく 全ての段階において、唯一の道案内を象徴するものと思われる。



 17世紀において錬金術伝統を継承した薔薇十字会士のなかで、ヒキガエルのシンボルを用いたのは たった二人だけだということに私は気づいた。このうち、あまり重要視されていなかった人物が ヨハン・ダニエル・ミリウスである。彼の版画は現代に多く残されているが、その中でヒキガエルが 登場するのは、『医科学傑集』(Opus Medico-Chymicum)のタイトル・ページのみである。 「気」を象徴する三角形の中に、ヒキガエルが上にいる鷹と鎖でつながれているものだ。 おそらく、これは固体である肉体が「揮発性」であるという(ゆえに「気」のシンボルとされている) 原理を表すものと見受けられる。そうでなければ、鎖が描かれているところから、「揮発性物質の固定」 を意味するのかも知れない。『The Crowning of Nature』にもヒキガエルの上に鳥が描かれているのは 非常に興味深いところである。(あちらのほうはヒキガエルと鳥は鎖でつながれていないが。) しかし、ミリウスの版画のテクストには、「ヒキガエルが吐き出したものがくっついて離れなくなるまで 固定する」ことについての説明がなされている。この種のシンボリズムには、時代の背景に合わせて 何らかの変化によって、二通りの解釈を持つようになったに違いない。


 一方、最も特筆すべき点は、ミハエル・マイアーの胸像には、『逃げるアトランタ』 (Atalanta Fugiens) に組み入れられたマイアーの作品に描かれる紋章と全く同じシンボルが使われているということだ。 マイアーはこのシンボルを、『シンボラ・アウレア・メンサ』(Symbola Aureae Mensae) のアビケンナ(中世イスラム最大の医者・哲学者)の主要シンボルとしても用いている。 これは明らかに「揮発性物質の固定」を明確に説明するものと言える。





マイアーは、このヒキガエルのシンボルを錬金術寓意画集『逃げるアタランタ』の第5番のなかでも 用いた。一人の男が女の胸の上にヒキガエルを置いている寓画である。この寓画の意味するものは、 リプリーの Visionと多くの類似点を持つ。

女の胸に冷たいヒキガエルをのせよ
赤子のように、ヒキガエルに女の乳を飲ませ、
大きく膨らませるのだ
女は弱らせて死なせ
それで最高の薬を作れ
人間の心臓から毒を取り除く薬を[21]




この中で、ヒキガエルが飲むのは葡萄の汁ではなく処女の乳であるから、これは異なる意味を 持つものかも知れない。しかしながら、ここで死ぬのはヒキガエルではなく、乙女である。 ヒキガエルを胸にのせた女の絵は、ボッシュが用いた「放蕩」あるいは「セックス・アピール」の シンボルと一致することから、意図的に性的な解釈を持たせたとも考えられる。

 ここで挙げた錬金術におけるヒキガエルのシンボリズムは、おそらく非常に不完全である。 15世紀から17世紀の間にかけて、このシンボルの意味が変化していることは紛れもない事実である。 しかし、そこには確かに多少の連続性があるというのが私の結論だ。 シンボルの意味が変化したことの理由については、おそらく、17世紀の薔薇十字団の啓蒙主義によって、 リプリーの物質的錬金術及び当時の彼の作品(実際の錬金術の過程を説明した書物など)が、 高度な精神性を帯び、おそらく性的な意味合いも組み込まれたたためと思われる。

注釈:
1. 錬金術を解明する鍵を見つけたと主張する学者がいるが、これは受け入れがたい。 彼らの研究範囲は、ユングの象徴主義的な説明*から、化学史研究家による完全に化学的な観点からの 錬金術の説明に至るほど浅く広範囲で、詳細な研究はなされていないと思われる。
(* ユングは、自分が生み出した心理分析法を広めるために錬金術的な表現法を用いただけだ。)

2. スタニスラス・クロソウスキイ・デ・ローラ『錬金術の秘密』(The Secret Art of Alchemy) 23~30ページ。『甦ったリプリー』(Ripley Redivivus)に関するエイレナエウス・フィラレテスの 注釈が追加された再版本。

3. ユング『心理学と錬金術』 ill. 196. スタニスラス・クロソウスキイ・デ・ローラ『錬金術の秘密』 (The Secret Art of Alchemy) pl. 65, パウウェル『古代科学の錬金術』 (Alchemy, the Ancient Science) 66ページ 

4. マンリ-・P・ホ-ル 『西洋・東洋の神秘主義における瞑想シンボル』 (Meditation Symbols in Eastern and Western Mysticism)、ロスアンジェルス、1988年、203ページ

5. ヒキガエルのシンボリズムに関する総合討論については、 E.A. アームストロング『人間と神話と魔術』(Man, Myth and Magic) 2856ページを参照。

6. 『Tenth Treatise』 - 『Concerning the Secrets of Alchemy』 116ページを参照。 1989年、Llanerch Enterprises.

7. ワイザー・ラピドス 『In Pursuit of Gold』 1976年、99ページ

8. 同上 p.126

9. メアリー・アン・アトウッド 『A Suggestive Inquiry into Hermetic Mystery 』 317ページ。 (アトウッド氏は、アッシュモールの『英国化学の展覧場』の一部を引用したと思われるが、 裏づけは取れていないことを申し上げておく。)

10. ユング『心理学と錬金術』 437ページ

11. メアリー・アン・アトウッド『ヘルメス秘儀の探求』 (A Suggestive Inquiry into Hermetic Mystery) (p.406) 『甦ったリプリー』からの引用。

12. メアリー・アン・アトウッド著 『ヘルメス秘儀の探求』 (A Suggestive Inquiry into Hermetic Mystery) (p.94) アッシュモールの『英国化学の展覧場』からの引用。

13. 同上

14. コリン・ウィルソン 『秘教』(Mysteries) 433-35ページ、Partner、1979年。 ウィルソンの解説は、Kenneth Roxroth『トーマス・ヴァーン全集』(The Works of Thomas Vaughan) の序章に基づくもの。University Books, New York, 1968年。

15. Anna Boczkowska "Tryumf Luny i Wenus" 63ページ、Krakow、1980年

16. 『人間と神話と魔術』 2856ページ 

17. 『Crowning of Nature』編集・出版:アダム・マクリーン、Edinburgh, 1980年

18. 同書40ページ 

19. 『Elementa Chemiae 』 1718年

20. 『Crowning of Nature』 127ページ

21. アダム・マクリーン『Crowning of Nature』(ジョスリン・ゴドウィン訳)、 Tysoe、1987年、85ページ。 (著者、タイトル、ページ番号、出版社、出版年の順に記載)

Copyright by Dr. Rafal T. Prinke Polish Academy of Sciences Poznan, Poland
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